院内保育所
院内保育所とは
院内保育所とは、その名称のとおり病院内または病院の周辺に設置された保育所のことです。
医者や看護士など病院に勤務しているスタッフの子どもを預かり、病院によっては24時間保育に対応しているケースも。
院内保育所は、企業内保育所のひとつに分類されています。
病院の労働環境を改善するための対策としても注目されている制度です。
一般の保育所との違い
預かり可能時間が長い
院内保育所は、一般の保育所より預かり時間が長めです。
総合病院などの大きな医療施設では、早番・遅番・夜間という変則的な勤務シフトを組んでいるケースがほとんど。そのため保育所のほうも、病院スタッフの勤務時間に合わせた預かり時間を取り入れていることが多く、運営時間の幅が広いのが一般的。
保育士も病院スタッフと同様に、いくつかのシフト制を取り入れて勤務しています。
夜間も預けられる施設が多い
一般的な保育所のなかには、遅い時間まで預かってくれる施設もありますが、深夜帯まで預かってくれる施設はほとんどありません。
しかし病院内の保育所の場合は、勤務時間が不規則な医師や看護師に合わせるために24時間体制、夜間保育を取り入れている施設が多くあります。保育士も院内保育所の運営に合わせてシフト制を導入しています。
登園時間が決められていない
一般的な保育所の場合は、毎朝決まった時間に赤ちゃんや幼児を預けます。
しかし院内保育の場合は、変則的な勤務時間である保護者に合わせるために、登園時間や曜日は毎日異なるのが特徴です。朝から登園する日もあれば、夕方以降に登園することもあるわけです。固定された日時がなく、登園時間が決まっていない点が他の保育施設と大きく異なります。
院内保育所を開設するための手続き
院内保育所は認可外保育に分類されますが、開設するにあたっては地方自治体からのチェックが随時入るでしょう。
申請する場合には必要な提出書類を準備し、施設が基準を満たしているかなども確認する必要があります。
そのため労働局と密に連携し、助言などをもらいながら申請内容を見直すことが重要です。
申請方法や設備基準などは自治体によって異なるため、各自治体の条件を確認し、期限までに申請を提出するようにしましょう。
また助成金の申請も必要になってくるので、どのような書類が必要になるのか、労働局に問い合わせ、ミスがないように行ってください。
院内保育所を導入するメリット
最近は徐々に増えつつある医療施設内の保育所。病院に医療従事者のための保育所を設置することは、従業員サイドだけでなく病院経営サイドにもメリットがあります。
こちらでは、院内保育所を設置することによる経営側のメリットを紹介していきます。
離職率の低下が期待できる
総合病院などで勤務している医師や看護師の場合、変則的な勤務形態の中で昼夜問わずに働いています。勤務時間中に子どもを見てくれる人がいない保護者は、変則シフトに対応してくれる保育施設を見つけなければならず、それができなければ働きたくても育児を理由に病院を辞めなくてはなりません。
しかしこのような問題も、病院側に保育所があれば解決します。保育所探しのストレスがなく、産休と育休を取った後は職場復帰が早く叶います。育児が理由の離職を減らせ、優秀な人材を失う心配がなくなるのです。
採用率の向上が期待できる
妊活中や子育て世代の医師や看護師にとって、病院内に保育所が設置されているということ大きな魅力です。
近年では看護師などの医療従事者の慢性的人手不足という背景もあり、院内保育所があるというポイントは育児支援体制が整っている勤務先という印象を与え、応募者が集まりやすい傾向にあります。
ほかの病院より良い待遇と環境を用意すれば、高いスキルを持ちながらも育児を理由に離職せざるえなかった優秀な人材を採用できる可能性が高くなります。
院内保育所を利用するメリット
働く施設内に子供を預けることができる院内保育所。こちらでは院内保育所を利用する側から見たメリットについて紹介していきます。
職場との距離が近い
病院敷地内にある院内保育所は、職場との距離が近いので子供と一緒に通勤して一緒に帰れるのが魅力です。自宅から勤務地の道線上にあるので送迎が楽ちんで通勤時間が短縮できます。また授乳が可能な施設の場合は、休憩時間に授乳することもできます。
子供が近くにいるという安心感もあり、子供が体調を崩したりケガした場合でもすぐに駆けつけられることは、保護者にとって嬉しい限りです。
利用料が安い
認可や認可外、子供の年齢にもよりますが、一般的な保育施設は月額2万円~4万円の利用料がかかります。
院内保育施設の場合は一般保育所より利用料が安いケースが多く、病院施設によっては無料で利用できることも!おおよその相場は2万円程度で利用できるようです。
この数万円の料金差は、家計への負担を大きく軽減させてくれるでしょう。
融通が効きやすい
院内保育所のメリットでもあったように、保育園に預ける時間やお迎え時間に融通が利くのは医療従事者には嬉しいポイントです。
一般的な託児所では朝8時から夕方6時前後というような決まりがありますが、院内保育所では24時間保育を行っていることが多く、朝・昼・晩、どの時間からの預かりもO.K、という施設が多いのが特徴です。
急な残業で遅れても焦らず迎えにいけること、仕事上の残業の延長は料金を請求されないなど(施設にもよる)、一般保育所にない融通が魅力的です。
院内保育所のデメリット
とくに大きな病院などの場合、シフト制で夜仕事をしているスタッフも多くいます。
そのため24時間保育が必要になるでしょう。
そうなれば保育士の人材を確保することが難しくなることも。
そうなれば運営自体に影響を及ぼしかねません。
院内保育所を円滑に運営するためにも、保育士確保が必要不可欠です。
院内保育所を円滑に運営するために…
大きな病院の場合、院内保育所を自社で運営しているケースもありますが、外部委託をしているケースがほとんどです。
助成金の申請や保育士の確保などは、ノウハウを持った専門業者に任せることでスムーズに行うことができるでしょう。
また外部に委託することで、開業や運営の手間を大幅に省くことができます。
保育士も自社から派遣することも可能で、保育士人材に悩むこともありません。
また保育事業を専門にしているため、子供たちを一番に考えた環境づくりも行ってくれるでしょう。
そのため保護者にとっても預けたくなるような施設づくりが実現できます。
院内保育所を導入する際の注意点
二重で助成金を受け取ることはできない
保育所の設置や運営に関わる助成金の交付をすでに受けている場合、別のところで助成金を申請しても二重に受け取ることはできないので注意が必要です。
たとえば、地域型保育給付をはじめ、特例地域型保育給付や地域医療介護総合確保基金、事業所内保育施設設置・運営等支援助成金といった助成金を受け取っている場合、企業主導型保育事業の助成対象にはなりません。
受けたかった助成を諦めなければいけない可能性があるため、申請する助成金については慎重に検討しましょう。
保育士の労働環境を整える
医師や看護師と同様に、保育士も労働環境が悪い職場には定着しません。保育士の人手が不足すると保育所の運営が困難になり、サービスの低下につながってしまいます。
病院内の保育所は、夜勤の看護師が利用しやすいように24時間体制でサービスを提供しているところも多いですが、利用者側の事情を優先し過ぎると保育士の労働環境の悪化を招きかねないので要注意。
とくに自営の院内保育所だと、保育士の不満がたまって同じ職場で働く看護師との信頼関係が崩れる可能性があります。保育所を利用する医療従事者だけでなく、そこで働く保育士の労働環境にも配慮した管理体制が重要です。
定員割れしないかシミュレーションしておく
保育士の人員が足りていても、園児を確保できなければ保育所を継続して運営することができません。
そのため、院内保育所の導入を検討する場合、オープンしたら利用者はどのぐらい見込めるのか、数年先まで園児の数をシミュレーションしておくことが大切です。そのほかにも、園児の年齢層や預けたい時間帯、希望の保育料金など、院内保育所に対するニーズを病院スタッフからリサーチしておきましょう。
また、保育所で受けたいサービスや過去に利用していた保育所で良かったサービスなども合わせてリサーチしておくと、保育所の運営に役立てます。
保育中の事故に備える
保護者から大切な子どもを預かるからこそ、保育中に事故が起きないように細心の注意を払う必要があります。
保育所で事故が発生しやすい場面としては、お昼寝中をはじめ、プールや水遊び、食事、散歩中など。事故を防ぐには、事故が起こりやすい場所を事前に特定して危険性や改善点をしっかり共有し、十分な数の保育士を配置したり役割分担を明確にしたり、といった事前の備えが重要です。
また、保育所の運営を外部に委託する際は、危機管理の体制がしっかり整っている会社を選ぶようにしましょう。
クレーム・トラブル対策も重要
保育所の運営は、子どもだけに気を配っていれば良いというものではなく、保護者からのクレーム・トラブル対策も重要です。
保護者からのクレームやトラブルが起こる理由としては、保育士の子どもに対する言動や保護者への雑な対応、保育に対する考え方の違い、保育士によってバラつく対応などがあげられます。
これらのトラブルはコミュニケーション不足が原因になっているケースが多く、保護者への細やかな連絡伝達や保育スタンスの共有、保育士間での情報共有の徹底、などの対策が必要です。
とくに職員だけでなく地域からも子どもを受け入れている院内保育所は、対策をしっかりとっておかないと病院のイメージや信頼低下にもつながりかねないので注意しましょう。
院内保育所を導入する際の流れ
院内保育所の設置は、小さなお子さんを持つ医療従事者に安心感を与え、仕事の定着率の向上と病院イメージの向上へとつながります。とは言っても、新たに院内保育所を設置するにはクリアするべき開設基準やプロセスがあり、決して簡単なものではありません。
こちらでは院内保育所を導入する流れを解説していきます。
運営方法を検討
院内保育所を新たに設立するための手順とポイントを紹介していきます。
院内保育所のニーズを把握
院内保育所の設置の検討段階から、どれほどのニーズがあるのか把握しておきましょう。
保育所をオープンしたら利用者は何名くらいになるのか、児童の年齢層や預けたい時間帯、希望の保育料金などを病院で働くスタッフ(医師・看護師・事務員など)にアンケートをとってみましょう。
また保育所で受けたいサービスや、子育て経験者から他の託児所であってよかったサービスの内容も情報収集すると、開園後の運営に役立ちます。
自社運営か外部委託か?
院内保育所を開く場合、病院が自ら運営する方式と外部の保育事業者に委託する2つの方法があります。
院内保育所を直営する場合は、委託業者に頼むコストの削減ができますが、オープン前の準備から運営までを担う人員確保とそのノウハウを学ばなければいけません。
一方外部の専門業者に委託した場合は、コストがかかりますがコンサルティングから運用費用、保育士募集、必要備品の調達など請け負ってくれます。委託会社によっては助成金関連書類など煩雑な事務手続きも任せることも可能です。
経験豊富なプロに任せることで、病院職員は自分の仕事に集中できるというメリットがあります。
院内保育所設置の基準を知る
院内に保育所を設置する場合、建築基準法や消防法、各自治体の条例などさまざまなルールに則った取り決めがあります。
職員の人数
院内保育所の最低職員配置数には次のような基準があります。
- 乳児:約3人に対して1人
- 満1才~満3才未満:約6人に対して1人
- 満3才~満4才未満:約20人に対して1人
- 満4才以上~:約30人に対して1人
この数の合計に1名を加えた数以上の職員が必要です。例えば乳児が3人、2歳児が9人いる場合は、3人+1人で最低でも4名の職員を配置しなければなりません。
職員の資格
保育所の職員の半数以上が「保育士」の資格を持っていることが必須です。また保育士以外の職員についても「子育て支援員研修」を受講する必要があります。
開設基準に準じた施設を確保
院内に保育所を開設する場合、下記のように利用定員に応じた基準が設けられています。
【定員20名以上】
- 乳児室:子供1人あたり1.65㎡以上
- ほふく室:子供1人あたり3.3㎡以上
- 保育室:2歳以上児1人あたり1.98㎡以上
【定員20名未満】
- 乳児室 or ほふく室:子供1人あたり3.3㎡以上
- 保育室:2歳以上児1人あたり1.98㎡以上
もし保育室を院内の2階以上の場所に設置する場合は、建築基準法によって建物の造りが耐火建築物か準耐火建築物になっていること、そして4階以上の場合は特別避難階段や屋外避難階段が必要となります。
さらに転倒事故を防止するための安全設備など、児童福祉施設の基準要件に適合することも条件です。また認可外保育施設の設置基準や調理・給食を配置する場合は食品衛生法の基準も考慮する必要があります。
このように院内保育所を設置するには、建築基準法や消防法、食品衛生法のほか、自治体が制定する条例があるため、自治体の担当部署へ確認して調整しなくてはいけません。
確認申請を受領後に設備の設置を進め、それが完了したら完了届を自治体の建築主事に提出します。
安静室の有無
院内保育所に安静室を設ければ、体調不良の子供を預かることができます。
看護師の配置と1人あたり1.98㎡以上の面積、寝具、救急医療品配備が条件で、安静室設置の有無は運営側が決める案件です。しかし病院内の保育所の場合は、一般施設より容易に設置できる環境が整っていると言えるでしょう。
人材確保・設備や遊具、備品の導入・利用者募集
院内保育所の設備や備品、定員に合うレイアウトの作成、保育料金の検討、保育士の募集などの準備を進めていきます。
院内保育所の開園日の目安がついたら、利用者を募ります。
院内保育所の開設プロセスには、さまざまな知識と時間が必要です。病院側にノウハウがないのであれば、専門業者に依頼するもひとつの方法です。保育所や託児所などの運営サポートを実施している会社はいくつもあり、サポート体制もそれぞれ異なります。いくつかの業者とコンタクトを取り、サポート体制や予算を照らし合わせて検討してはいかがでしょうか。